こんな面倒くさい女を久しぶりに漫画で見た。
雑誌「モーニング」の奨励賞を受賞した冬野梅子先生の読み切り『普通の人でいいのに!』の主人公のアラサー女性がサイコーにウザい。
初デートで同僚に連れてこられたちょっと高めな店で「たまには贅沢しましょう」と言われただけで、
たまには贅沢って私たちはお互いの「普段」を知らないだろ・・・
とか内心で思ったり、
「どんな男がタイプか?」と聞かれ、
ホモソーシャルどっぷりじゃない人ですかね!
なんて言い出して、相手が意味がわからずキョトンとしたら、
そりゃ知らないか
だって。
そりゃ知らないか? そう思ってたなら最初からわかるように言え。
ほかにも自分がよく行くスナックのことを「サード・プレイス」と呼んだり、SEXの時に手を握られたら「女が喜ぶと思ってやってんのか?」と邪推してみたり。
この主人公、言動のウザさが枚挙にいとまがなさすぎる。
なぜ彼女はこんなにもウザいのかといえば、彼女は自分が「普通」であることが強烈にコンプレックスで、その卑屈さがゆえに他人の言動にいちいち突っかかってしまうのだ。
ただこの「普通」というのがややこしくて、主人公は実際のところ「普通」ではない。
「いわゆる普通の女性」は好きな男性のタイプを聞かれて「ホモソーシャルどっぷりじゃない人」なんて答えないし、行きつけのスナックを「サード・プレイス」などとしゃらくさい言い方をしない。
とはいえ、もちろん彼女は他人が羨む「特別」な人間ではないし、そして「いわゆる普通」の人間でもない。特別であることに憧れを抱きながらも自分には無理だと感じており、それでいて「特別」を諦めきれず「普通」に染まることもできない中途半端な人間だ。
しかし残念なことに、その「普通であることを受け入れられない」という人間性すら、この世界ではありふれた「普通」というあまりにも無情な立ち位置に彼女はいる。
普通にすらなれないし、ましては特別にもなれない。彼女はただただ周囲に憧れと苛立ちを感じながら宙ぶらりんな毎日を過ごしているのだ。
そんな主人公の姿は読んでいてとてもイライラする。でもどこか彼女を憎めないのは、僕自身がそんな彼女の苦しみがなんとなくわかるからだろうか。
特別になんてなれないし、普通に染まることもできない。このダメな自分すら世間にはありふれた普通であることにウンザリしながら生きているのは僕も一緒だ。
普通である私の日常を変えなきゃ! まずはできることを一歩ずつだ!
とか言いながら、次のコマで今晩の夕食に悩んで、
ファミレスでいいや
ってなっちゃう彼女の普通のダメさ加減は見ようによっては愛らしく、それはそれでかけがえのないような人生にも思えてくる。
そんな彼女は最後に大きな冒険をするんだけど、その行動さえ自分ではない「普通じゃない」人たちに影響された思考回路なところも普通に哀れだ。
この世界を生きるのには少々難儀すぎる性格だと思うが、彼女の将来に幸福が待っていることを願わずにいられない。
そんなウザくも愛らしい普通の主人公と出会える漫画「普通の人でいいのに!」はコミックDAYSで無料で読めるのでぜひ読んでみて欲しい。
「普通」・「特別」という言葉に踊らされている彼女をみて、「普通って何?」と改めて考えさせられるかもしれない。
あ、彼女には面倒なんでしたくないです。